第一回ストレスチェック制度導入期限である11月30日が近づいて来ました。ここではあらためて、ストレスチェック導入の流れについて解説していきたいと思います。
上記は、厚生労働省が出しているストレスチェック導入の流れの図になります。案外ストレスチェック導入まで手順が必要であることがわかります。
1. 事業主の方針表明
(ア) ストレスチェックへの取り組みを文章で表明する必要があります。
2. 衛生委員会での調査審議
(ア) 実施体制について、衛生委員会で、
① ストレスチェックの企画
② ストレスチェック実施項目(調査票)の選定
③ 評価基準案の提示又は確認
④ 個人のストレスチェック結果に基づき面接指導要否の判定
⑤ 面接指導の実施と事業主へ就業上の意見を述べる
⑥ 集団的分析を実施し、結果を事業者に提供
⑦ 高ストレス者への医師の面接指導勧奨
⑧ 面接指導を申出なかった人への支援
⑨ 個人結果の保存
等を審議する必要があります。
3. 労働者に説明・情報提供
(ア) 衛生委員会の議事録などを通じて審議した結果を周知する必要があります。
4. ストレスチェック実施
(ア) 実際の実施フェーズです。多くのストレスチェックの実施業者がここの部分のみ考えていることを知っておいてください。前後も含めてサポートしてくれる業者を選定することがストレスチェック導入成功のコツかもしれません。
5. 結果通知(個人へ)
(ア) 個人への結果通知です。行政の指針等によると、
①レーダーチャートなどでわかりやすい方法を用いています。
②高ストレス者に該当するかどうかを示した結果
③医師による面接指導の要否 (①~③は必須)
④事業者への面接指導申出の方法(事業場内の担当者)を表記
⑤ストレスへの気付きを促し、セルフケアへのアドバイスを伝える
⑥相談窓口に関する情報提供 (④~⑥は推奨)
6. 結果通知(会社へ)、集団的分析
(ア) 職場改善活動につながる情報を全体的な視点で提供します。個人が特定されないよう部署ごとに分析する際は10名以上になるよう工夫が必要です。部署間比較や、同業他社との比較、全国平均との比較を用いて自社の状況を客観的に把握することが大切です。そういう意味で、標準化された職業ストレス簡易調査票を用いるのがよいでしょう。今後いろいろな人事施策と絡めて指標を見ることにより、この人事施策は成功したのか、どうだったのかをデジタルに把握することができるようになります。このこともストレスチェック導入による企業側のメリットと言えるかもしれません。
7. 必要に応じて事後対処
(ア) 厚生労働省が定める基準以上の人が申し出た場合は、企業はは医師による面談を実施しなくてはなりません。その場合の費用は企業負担となります。
(イ) 単にストレスチェックを実施するだけでは企業内の状況は変わりません。その後例えば、研修や人事制度改革、社外相談窓口の設置等なんらか施策を考えなくてはなりません。その後数値がどうなるかを判断することにより、その人事施策が企業に合致していたかどうなのかを検討することができるようになります。
ストレスチェックを実際に導入したものの、なかなか社員が受けてくれないというのはよく聞く話です。私は、法改正でストレスチェックが義務化される前からストレスチェックの導入に携わってきましたが、ストレスチェックの受検率を向上させるにはいくつかのポイントがあると感じています。それらを5つ、あげてみます。
<受検率アップのポイント>
①プライバシー保護がきちんと担保されていること
個人のストレス状況というのは、高度なプライバシーであまり会社に知られたくないという人が多くいます。自身の状態が悪いことを会社に知られてしまうと今の仕事から外されたり、なにか不利益な取り扱いをされるのではないかと心配することが多くあります。そのような人でも受検してもらうにはきちんとプライバシーが確保されていることが大切です。また、会社は同意なく結果を知ることができないということや、不利益な取り合い使いをしないということをきちんと伝えておくことも大切です。その意味では、ストレスチェック導入に当たって、衛生委員会の審議できちんと労使でプライバシーについてはよく議論しておくことが大切でしょう。今回の法改正でもかなり厳格に求められている要件となりますので、ストレスチェック実施に当たって必須事項と言えるでしょう。
②従業員と使用者との信頼関係がきちんとあること
いくらプライバシーは大丈夫。不利益な取り扱いはしませんと表明していても最終的にこの信頼関係がないとなかなか難しいと感じています。すぐに形成できるものではないので難しいのですが、ここがすべての基本であると考えています。
③ストレスチェックが何か特別なことではなく、当然のように定着していること
定期的にストレスチェックを実施していると、そのうちストレスチェックが何か特別なものではなく、当然のものとして定着してきます。このようになるまで繰り返し、繰り返しストレスチェックを実施していくことが大切です。多くの企業で1回目のストレスチェックよりも2回目、3回目以降のストレスチェックの方が受検率が高くなります(逆に低くなっている場合は何らかの問題が発生しているので、対応が必要です)。繰り返し当たり前のものとして実施続けるというのが案外大切なポイントとなります。
④ストレスチェック後の施策(相談窓口や面接等)がきちんと周知され理解されていること
ストレスチェックは単に実施して終わりということではなく、きちんとその後の施策とリンクさせることが大切です。そのためにきちんと自身のストレスチェックの結果が悪かったときに気軽に相談できる窓口を設置したり、ストレスチェックの結果の読み取り方研修を実施したりすることが大切です。自分自身がストレスが高いと気付いても、それでおしまいでは何の意味もないのです。要はストレスチェックをやりっぱなしにしないことが大切なのです。
⑤事業主が一貫して社員の健康に気を付けていることを表明していること
②の信頼関係と近いのですが、事業主がきちんと社員の健康問題について考えている会社ではストレスチェックの受検率が高いです。例えば「安全なくして経営なし」と社員の安全を社是にしている会社では、メンタルヘルス対策に対しても労使ともに真摯に取り組んでおり効果も高いです。普段から事業主の考えを表明しておくことが大切で、一貫性がある取り組みであることを伝える努力が必要でしょう。
以上が5つのポイントとなります。しかしながら目的がストレスチェックの受検率の向上だけになってしまうとまた目的と手段が入れ替わってしまします。ストレスチェックはやるだけでは、何も会社は変わりません。あくまでもメンタルヘルス対策の、あるいは人が辞めない生産性の高い職場づくりの第一歩として導入するという考え方が大切です。
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